塩と座右の銘
座右の銘なんか、
酒の勢いでも借りないと語れない。
だからこそ、お酒の席でそんな話をするのが好きだ。
飲みの相手も酔いが回ると、
普段なら恥ずかしくて心に閉まっている四字熟語なんかをポロッとこぼす。
友だちの家に遊びに行った時、
友だちが学習机の右下、大きめの引き出しから、おかきの缶かんを取り出してきて、大切な宝物を見せてくれた。
あの感じになんとなく似ている。
友との心の拠り所の共有!
イッツア最高の酒の肴!
なんじゃにゃーの!
話を戻して、四字熟語だが、
一期一会、日進月歩、温故知新…
誰しも響きのいい四字熟語に自分自信の生き方を重ね合わせて、見えやすいところに書いたり貼ったりしたものじゃないだろうか。
そんな人に語るには少し恥ずかしい四字熟語ちゃんだが、つい先日、ある男が僕に新たな四字熟語をプレゼントしてくれた。
「株主優待」である。
焼肉定食ならぬ株主優待!
これを引っさげて、ある男は僕の前に現れた。
その名も中澤(実名)。
中澤は僕より、3つ歳下の芸人。
百楽門というコントを得意とするコンビのシュッとしている方を担当している男だ。
コイツ、見た目はシュッとしている。
しかし残念ながら中身はお調子者のバカだ。
頭が悪いわけではなく、常識が抜けているタイプのバカ。
クラスに一人はいた、とりあえず一回カッコつけようと試みるタイプのバカだ。
大学もなんとなく中退したという話。
なんとなく有名人は大学中退が多いという情報を耳にしたことが理由で中退した。やはりバカでホッとする。
そんな愛すべき後輩芸人の中澤が、呑んだ帰り道。僕がシメに何か食べたいなーと思っていると、
「きょうたさん、良いものがあるんですよ♪」
と鞄を漁りだした。
バカに限って、嗅覚はいい。シメが欲しくなっている先輩の動きは見逃さない。
「ジャジャーン!マックの株主優待!」
と、中澤はドラえもんの真似をするわけでもなく、自慢気にチケットの束を天に突き上げた。
「どこで盗んだん?」
「盗んでないですよ!ワン!」
「お前が株主なわけないやんけ!」
「へへ、親が株主なんですよ!ワン!」
「実家で盗んだんやんけ!」
「違いますよ!今回はちゃんと、これを持ってモジモジしてたら母親がくれたんですよ!ワン!」
似たようなもんだろ!今回はって、やっぱり盗みもやってんじゃねーか!と思いながらも、
でかした!!!ということで、2人で手をとり合い社交ダンスを踊りながらマックへゴー。
なんでも、この株主優待券があればセットメニューのどれでも好きなのを選べるとのこと。
普段、100円マックと水という小学生でも頼まない注文しかできない低所得者2人はビクビクしながら、店員さんに本当にこんな魔法のようなチケットが使えるのかを確認した。
使える!よし!当たり前だが、よし!
厚かましいとは思いながら、二度と来ないチャンスに勇気を出し、恐る恐る
「Lサイズも選べるのですか?」
と尋ねると、店員さんが
「サイズもご自由にお選び下さい」
とのこと!!!よし!!
ならばポテトもジュースも余裕のLサイズ!
食べきれなくても明日食べればいいものはとりあえずLだろ!!!いや、食べ切るし!!!
さらに…。
今キャンペーン中の「ボリュームアップ夜マック」(100円プラスでパティ2倍)というものも併用できるのか、一か八か聞いてみた。
なんせ普段はボリュームアップさせるベースのバーガーも注文できねぇからな!!!
今回は強気!100円投資は覚悟の上だ!
すると、店員さんも株主優待券とボリュームアップ夜マックのコンボを聞いてきたツワモノは初めてのようで、奥から店長が出てきた。
そして、店長が一言、
「株主のお客様は無料でボリュームアップもさせて頂いております!」
なにー!?無料!!!
普段は、レジで水を注文している私たちが?
なけなしの100円すら受け取ってくれないの?
株主??はぁー♪恐るべし株主優待!!!
鼻息を荒くしながら、反り返るほど胸を張って、株主優待券で支払いを済ます中澤。
こういう時に想像の株主になり切れるバカがハンバーガー以上に愛おしかった。
帰り道、中澤はスキップしながら
「株主って最高!」と叫んでいた。
いつも以上にフライドポテトがホックホクだったのはきっと、株主用のものを店長さんが用意してくれたに違いない。
来世は野球帽のツバには「株主優待」と書き込んで甲子園を目指そうと思った。