天才きょうたボーイ!

漫才協会所属、おせつときょうたのチビでおかっぱで声が高い方を担当している天才きょうたのブログ。大阪生まれ、浅草育ち、日記を10年以上毎日書き続ける男の文字。

路上で漫才

「同じことやってんのに貰えるお金が全然違うな」と営業先の楽屋で、帰り仕度をしながら先輩が呟いた。周りの芸人も、「ほんとだ!同じ漫才やっているのに場所によって、二桁くらい違う!」と、共感して笑った。


そんな会話の何日か後に、実際にそういう1日があった。


その日の最初の漫才は駅前の路上でだった。
地域のお祭りで、駅前に設置された特設ステージを中心に、至る所でパフォーマンスが披露されていた。
仲介人に案内されたステージは、「ここの辺りでお願いします!」と言われたロータリーのバス停のわきの空間だった。
もちろんセンターマイクなんかないし、本当の路上だ。少しびっくりしたが別に路上は初めてではないので大丈夫だ。
「衣装に着替えるのは、あそこのお店とお店の間でお願いします!」と言われて、実際にそこに行ってみると、本当に露店と露店の間の空間だった。ただの外だった。隠れているわけではなく、どうやらここで着替えていれば変質者ではないように見えるという仕組みの控え室だった。


誤解のないように書いておくが、別にこの環境のことは全く悪く思っていない。その日は晴れていたし、「外で着替えるの気持ちがいいな♪」くらいのもんだ。よく知っている仲介人だし、嫌な気分にはならない。なんだったら着替えスペースの隣の露店で働いている女の子が可愛くて、超ラッキーとさえ思っていた。


そして、いざ、漫才!
渡されたホワイトボードに「笑っちゃったら一歩前へ」と書いて隣の柱に立てかけておき、投げ銭を入れる箱の後ろに二人で並んで立てばステージの完成。
こういうのは声をかけても止まってもらえない。「あれ?なんかやってんの?」という興味を引く人だかりを作らなければならない。次のアーティストさんに近くでサクラのように見てもらい、喋り始める。
5分ほど漫才をしたら、見物客の多いお祭りだったので、20人ほどの人だかりをステージの前に作ることが出来た。何もないところに何かを生み出せた優越感、ひと仕事終えた安堵、それらと共にステージを降りると男の人が投げ銭箱に小銭を入れてくれた。
バトンタッチした次の芸人のネタを近くで観ているとさっき僕たちの漫才を見てくれていた女の子が駆け寄ってきてアメ玉をくれた。


これがその日の一本目の仕事の漫才だった。次の仕事のために、お祭りの会場を飛び出して、ギャラを舐めながら移動。


次の仕事は大学の学園祭だった。
控え室は地上20階の広々とした綺麗な教室。窓から見える街並みは絶景だった。ケイタリングにお菓子や飲み物もたくさん置かれていた。そして、何より嬉しいお弁当!とんかつ弁当だった。うまい!
とんかつ弁当を食べ終えて、プレゼント用の色紙にサインをして、共演者さんたちと談笑。出番の時間になって、意気揚々とトップバッターで漫才。
今朝、路上で披露してきたネタと同じものをした。そこにはセンターマイクと最初から座ってみてくれる沢山のお客さんがいた。


「もらったギャラで近所のコンビニでアメ玉を買い占めてやる!」なんて思いながら帰りの電車に揺られた。